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名古屋地方裁判所 昭和31年(行モ)3号 決定

宝飯郡西浦町字馬場五十二番地

申立人

伴常作遺言執行者

伴好雄

右訴訟代理人弁護士

佐野公信

豊橋市東八町

被申立人

豊橋税務署長

三井兼夫

申立人は被申立人に対し、被申立人が昭和二十九年十一月八日別紙目録に対してなした差押処分の取消を求める本案訴訟を提起し(当庁昭和三十一年(行)第一〇号不動産差押処分取消訴訟事件)右公売処分の執行停止を求めるため本申立をなした。当裁判所は被申立人の意見をきいた上、民法第一〇一三条同第一〇一四条に基き申立人の主張を正当と認め、次の通り決定する。

主文

被申立人が別紙目録記載の不動産に対してなした名古屋法務局蒲郡出張所昭和二十九年十一月八日受付第五〇五一号債権者大蔵省の差押登記に基ずく公売処分は、本案判決確定に至るまで停止する。

(裁判長裁判官 渡辺門偉男 裁判官 植村秀三 裁判官 永石泰子)

目録

宝飯郡西浦町字馬場三十八番の五

一、畑 弍拾六歩 内 弍歩 畦畔

(参考)

執行停止命令申請書

宝飯郡西浦町字馬場五十二番地

(伴常作遺言執行者)

申立人 伴好雄

岡崎市連尺町四十七番地ノ一

右代理人弁護士 佐野公信

豊橋市東八町

被申立人 豊橋税務署長

三井兼夫

公売処分執行停止命令申請事件

不動産の表示 別紙目録記載の通り

右価額金 六万円

申請の趣旨

別紙目録の不動産につき名古屋法務局蒲郡出張所昭和二十九年十一月八日受附第五〇五一号債権者大蔵省なる差押登記に基づく公売処分は御庁昭和三十一年(行)第 号不動産差押処分取消請求事件の判決をなすまでこれを停止する。

との決定を求める。

申請の理由

一 被申立人は本申請外会社畑中製綱所に対する法人税並源泉所得税徴収のため登記簿上同社無限責任社員である伴政治の名義に係る別紙目録記載の物件につき名古屋法務局蒲郡出張所昭和二十九年十一月八日受附第五〇五一号差押登記手続をなし昭和三十一年五月二十四日公売に附する旨公告した。

二 然れども別紙目録記載の不動産はもと亡伴常作の所有だつた処伴常作は昭和十二年六月九日名古屋地方裁判所々属公証人佐藤義高作成第三〇二三五号遺言公正証書により申請外伴政春に之を遺贈し昭和二十八年十二月十八日死亡したから実体申請外伴政春の所有であるから御庁に前項差押処分取消の訴(昭和三十一年(行)第 号)を提起したところ公売処分は前記の通り五月二十四日実施と相成つてゐるため同処分の実施により償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるので行政事件訴訟特例法第十条により公売処分の執行停止命令せられたく申請する。

疏明方法

一 遺言公正証書謄本並戸籍謄本により別紙目録記載の物件が伴常作により伴政春に遺贈され伴常作の死亡により申立人の所有に属すること並申立人は該遺言の執行者であることを疏明する。

一 抵当権設定財産公売通知書により右物件の公売は昭和三十一年五月二十四日実施されるものである事を疏明する。

附属書類

一、遺言公正証書謄本 一通

一、戸籍謄本 一通

一、抵当権設定財産公売通知書 一通

一、委任状 一通

昭和三十一年五月二十三日

右申立人代理人弁護士 佐野公信

名古屋地方裁判所

御中

不動産目録

宝飯郡西浦町字馬場三十八番の五

一 畑 弐拾六歩 内 弐歩 畦畔

右はもと昭和十二年当時馬場三十八番地畑一反一畝十五歩が分筆により馬場三十八番地の一畑六畝七歩となつたものが更に分割により馬場三十八の五となつたもの。

豊橋徴第 号 昭和三十一年六月四日

名古屋地方裁判所

裁判官 渡辺門偉男殿

豊橋税務署長

大蔵事務官 三井兼夫

公売処分執行停止命令申請に対する意見書

申立人 伴好雄

被申立人 豊橋税務署長

上記当事者間の公売処分執行停止命令申請事件(昭和三十一年(行モ)第三号)について被申立人は下記の通り 意見を陳述します。

(1) 意見

本件申立は棄却さるべきである。

(2) 理由

1. 申立外伴常作の死亡による推定相続人は、み巳、政治、好雄であるが、そのうち伴政治は合資会社畑中製綱所の無限責任社員として、同会社の第二次納税義務者であり、伴常作より相続した本件不動産に対し、国税徴収法第二十九条により滞納処分をなしたわけであるが、後相当期間を経過してから遺言書の発見により当該不動産は伴政春の所有なることを主張するも民法第九〇九条但書により当該申立はなし得ないところである。

尚昭和二十九年十月二十九日 差押(昭和二十九年十一月八日差押登記済)当時登記簿上は明らかに伴政治名義となつており伴政春の所有なることを主張しても民法第一七七条により対抗要件を欠くものである。

2. 本件執行停止は公共の福祉に反することになるから、許容さるべきでない。

租税の徴収が国家財政の見地よりして適時かつ適切になされねばならぬことはいうまでもないが、本件不動産差押処分については1.で述べたとおり法規の定める所により慎重に執行して来たところであつて、申立人等は相続開始のあつたことについては、被相続人の死亡の時より熟知しており、この行政処分が被相続人死亡後既に二年数箇月を経過した現在、遺言書の発見によつて執行の停止が容易に許容されるならば、国家財政の見地よりその円滑かつ適切な運営は到底期待出来ないから公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるといわなければならない。

3. 本件申立における申立人の主張の根拠は理由がないものであるが、仮りに本滞納処分を違法とし、これにもとづいて被申立人が当該差押財産の公売処分を執行したとしても申立人に償うことの出来ない損害を生ずることはない。

すなわち行政事件訴訟特例法第一〇条第二項にいわゆる「償うことの出来ない損害」とは金銭賠償不能、もしくは原状回復不能の損害をいう。(昭和二十七年十月十五日最高裁決定―最高裁判例集六巻九号八二七頁御参照―同趣旨決定―昭和三十一年一月二十六日名古屋地裁―昭和三十年(行モ)第三号執行停止決定申請事件)のであるが、本件公売処分によつて申立人(外政春)が受けることあるべき損害は金銭をもつて賠償することの可能な損害であるにすぎず、また本件不動産が公売された後において、仮に被申立人のなした差押公売処分が無効であるか、違法であるとして取消されることがあつても申立人はその所有権にもとずいて本件不動産を原状に回復せしめることが出来るのであるから公売処分によつて申立人が受くることがあるべき損害は原状回復不能の損害にも当らない。

以上よりして本件申立は失当であり許容さるべきでない。

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